ちょっと時間が前後してしまっていますが、雨の中8月末に「村野藤吾 ・建築とインテリア展」に行ってきました。
村野藤吾というと日生劇場が代表作として名高く、そもそも村野の建築作品自体が彼の思想や人生を雄弁に物語っているのであるが、今回の展示を見る中でその作品自体はもちろんのことだが、作品紹介のキャプションの中に引用された村野や村野に関わった人々の言葉たちも印象的だった。そのいくつかを紹介したい。
時流に乗るな、多数派に巻き込まれたら脱皮して必ず少数派になれ
社会的条件は非常に変わっていくでしょう。それに対応してやっていくには、ひとつのことだけいったり理屈だけいったってダメですよ。絶えずサムシング・ニュー、これをやらないと。
一つ目の時流に対する言葉は、つねに村野が言い続けてきた言葉だそうだ。もちろん彼は第一に建築家という視点でこの言葉を発したのだとは思うが、これはどんな世界でも言えることだろう。なにとも交換できないもの、いわゆる「何にも代え難いもの」になることこそがどんな世界であれゴールなのかもしれない。仕事であれ、人間関係であれ、自分にとっての自分自身の存在意義であれ。他の誰かでは困るようになって初めて一人前なのだ。他の誰かがやってもいいことなら、他の誰かにやってもらった方が大抵の場合いい。少なくとも他の誰かがやってもいいことのなかでやっていこうと決意するのであれば、それはその中で最も効率良くそれをやれるとか、誰よりも早くやれるとか、そういった同一直線上での争いのなかでストイックに戦うことを意味するだろう。
そして二つ目の言葉は、最晩年の91歳のときに、新高輪プリンスホテルを作った村野へのインタビュー記事から抜き出されたものだ。これは到底91歳の言葉とは思えない。こんなに自由な意識でいられる巨匠がいるだろうか。そしてまるで20代の若者の焦りにも似たような、斬新なアイデアへの渇望感が感じられるようなこんな言葉を、晩年間際に熱を込めてて語れるだろうか。
この村野の貪欲さをみていると、何となくApple ComputerのSteve Jobsのスタンフォード大学でのスピーチの際の結びの言葉、”Stay Hungry. Stay Foolish.”(ハングリーであれ、馬鹿であれ。)を思い出してしまった。(このスピーチ自体も素晴らしいのですが、それはまた別の機会にでも紹介したい)
そしてもう一つ、これは村野自身のものではないが、村野と親交のあった泉岡宗助の語録のひとつだ。
人の目に付かぬところ、人に気付かれぬところほど仕事を大切にして金をかけること
これは資産家であった泉岡ならではの言葉かもしれないが、こういう考えが今の時代にはかけていることかもしれない。そして今の建築からも決定的に欠けているいることのようにも感じる。(あくまで素人目線ではあるが)
他人からの評価ばかり追うがゆえに、他人に見えるところにしかお金を使わない。外部評価というものが厳しくなってきてから、そういう時代になってしまったように思う。(実際に、以前に博報堂がやった新富裕層のプロファイリング結果からもそんなお金持ち像がうかんできている。→富裕四族:博報堂生活総合研究所 [PDF] )他人に顕示するためにお金を投じるのではなく、自信で感じる価値のためにお金を惜しまない様にあって欲しいと個人的には思う。少なくともこの頃にはそんな価値観が存在していて、それが村野作品の様な壮大で緻密な建造物を実現させてきていることは間違いの無い事実だろう。
今回の展示は写真が中心ではあるが、直筆の図面や意匠案、日生劇場の一部や村野デザインの椅子のレプリカなど、様々な展示がある。建築好きはもちろん、そうでなくともいろんな視点から楽しめる展示だと思う。機会があれば是非。
村野藤吾 ・建築とインテリア ひとをつくる空間の美学
開館期間 : 2008年8月2日(土)~2008年10月26日(日) 開館時間 : 10:00より18:00まで(ご入館は17:30まで) 休館日 : 月曜日(9月15日、10月13日は開館)、8月11日(月)~8月18日(月) 入館料 : 一般500円(65歳以上400円)/大学・高校生300円/中・小学生200円
◎ 障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。主催・会場 : 松下電工 汐留ミュージアム 特別協力 : 京都工芸繊維大学美術工芸資料館、村野藤吾の設計研究会、MURANO design 助成 : アサヒビール芸術文化財団 協力 : IDÉE、CAD CENTER、Prince Hotels&Resorts、株式会社ユニオン 後援 : (社)日本建築学会、(社)日本建築家協会、村野藤吾研究会

