先日、久しぶりに風邪をひいた。
仕事しているときに少し喉が痛いかなと思っていたら、やっぱり次の日ぐったりきた。
いつも決まって夕方頃から喉が痛くなって、つぎの日の朝に風邪の怠さがやってくる。この風邪のひき方は少なくともここ何年も変わっていない。
そして風邪をひくと、いつも決まって風邪のにおいがする。何のにおいか分からないけれど、たぶん鼻自体が風邪のにおいがするようなそんな感じで、だからそれが引き金になって昔風邪を引いたときのことを決まって思い出す。
でも風邪によって症状が違う様に、ちょっとずつだけれどそれぞれ風邪によってにおいも違っていて、今回の風邪が思い出させたのは小学校の頃の風邪で休んだ日のことで、僕がはじめてロブスターを食べた日のことだった。ただ初めてロブスターを食べたというだけで、書くべき程の事件らしい事件があったわけでもないのだけれど妙にその日のことはよく覚えている。
たぶん秋とか、冬の初めとかそんなころの季節だったと思う。とても天気のいい日だったんだろう、家の中にいるのがもったいないようなくらい窓が明るかったのをぼんやりと覚えている。そしてその光とは対照的にだるっとした、頭の重たさも一緒に蘇ってくる。
もしかしたら小学校にあがってもいなくて、幼稚園の頃の話だったかもしれない。
とにかく、普段家にいないような時間に僕は家にいて、(その頃は公団の3LDKくらいのアパートだった)昔の公団住宅にありそうな細長いキッチンの先っぽにある縦長の窓から、きれいな陽の光がさしていた。その細長い形のせいでいつも薄暗いキッチンも、その日だけはとても明るかった。あるいは記憶のなかでだけ、いつの間にか明るかったことになっているのかも分からないけれど、僕の記憶の中にあるその日のキッチンだけはとても明るかった。
そしてたぶんまだ30代だった父がキッチンに立っている。
なんだか嬉しそうに、発泡スチロールの箱にはいったでっかいザリガニを見せてくれた。
ザリガニを食べるの?とたぶん僕が聞いたんだと思う。父はそのザリガニがザリガニではなく、ロブスターというのだと教えてくれた。たぶんあの父親のことだから、細かい説明までしてくれたんだと思う。
話の内容はまったく思い出せないけれど、ロブスターという名前と、それが食べられるということ、そして珍しく明るいキッチンに立つ、30代だったであろう父の細身のシルエットだけは覚えている。
はじめてロブスターのスープは、なんとなく不思議な味だったというくらいの記憶しかない。どちらかというと、ごちそうに嬉しそうな父の顔の方をよくを覚えている。たぶん子供の僕には(しかも風邪をひいている)ロブスターの美味しさはあまりわからなかったんだろう。
でもその日がなんだか特別で、なんだか不思議な日だったことはよく覚えている。

父 2001年
一人暮らしで風邪をひくのはあんまり良いものじゃないけれど、
こうして思い出せることがあるのなら、それはそれで悪いことばかりじゃないかもしれない。
なんて思うのはいまが元気だからなんだろうな。
においというものはつくづく、記憶と結びつくものである。
